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『アップルパイの甘酸っぱい香りと淡い想い出』

私は車の免許は26歳ぐらいに取得したので、勤め始めた頃は、バスで通勤していました。
朝6時頃起き、食事や身支度を済ませ、7時15分のバスに乗り通勤するのが日常でした。
バスではいつも一番後ろの席に座り、本を読んだり景色を眺めたりしながら片道40分ぐらいの道中を過ごします。

バスの通勤にも慣れたある日、一人の若い女性が途中のバス停で乗ってきました。
私より1つか2つ上ぐらいの髪の長いスレンダーな美人でした。
ちょっといたずらっぽいような小悪魔的な雰囲気のある女性でした。
その日から時々、彼女は同じバスに乗るようになりました。

そんな日が続き、いつの間にか彼女がバスに乗るのを楽しみにしてる自分に気づきました。
きっと彼女に淡い恋心を抱き始めていたのだと思います。
私も男ですから、彼女に話しかけてみたいという衝動が心の中でどんどん膨らんでいきました。
ですが他の乗客もいるので、恥ずかしさになかなか踏み切れないでいました。

よし来週こそは、声をかけてみようと自分に誓った金曜日、その日は忙しく残業になり いつもより遅い21時のバスに乗り帰路につきました。
途中の繁華街を通った時、偶然 バスの窓からある光景が目に飛び込んできました。
彼女が他の男性と仲良さそうに歩いていました。
私のバスでの恋が終わった瞬間でした。
ちょうどその頃、ラジオで聴き好きになった浜田省吾さんの『片想い』が、私の心の中で何度も繰り返されました。

そんな出来事から 20年ぐらい過ぎたある日。
私は、こじんまりとした洒落た喫茶店を偶然見つけ、立ち寄りました。
「いらっしゃい」 という声と共に注文を取りにきた女性の顔を見て驚きました。
バスの彼女でした。

彼女も当然、40歳になっていたと思いますが、変わらず綺麗でした。
コーヒーと小腹がすいていたので、アップルパイを注文して、待つことなく コーヒーとアップルパイが運ばれてきました。
他の客がいなかったので私は思い切って、「私の事を覚えていますか?」 と聞いてみました。
彼女が、怪訝そうな顔をしたので、「昔、バスで通勤されていませんでしたか? 私も同じバスに乗ってました」 と言ってみました。
彼女は懐かしいような表情を浮かべ、「あ、覚えています。いつも一番後ろに座られていた方ですよね。」 と言いました。
彼女の視界と記憶に私がいた事が嬉しくなり、それから少し話をしました。
彼女は、バスで通っていた若い頃から自分の店を持つ事が夢だったそうです。
「ようやく小さいですが店を持てたんですよ。」 と言って嬉しそうに微笑みました。
「夢を叶える事ができて良かったですね。おめでとうございます。」 と言って店を出ました。

彼女とバスで会ってから20年経ち、ようやく彼女に声をかけることができました。
その喫茶店にはその後一度も行く事はありませんでしたが、彼女の手作りの甘酸っぱいアップルパイの味と香りは今も心に残っています。

初恋はロック♪ 2024/08/07
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