サークルの先輩が大はしゃぎする浜田省吾に似ているという彼が 各バンドの講師として大学に来るようになって1か月が過ぎた。
練習以外では ほとんど彼と話をすることもなく 週一回のその時でさえ 先輩のバンドのように軽いジョークを言いながら盛り上がるわけでもない。
ただ“よろしくお願いします”と“ありがとうございました”の30分。
だけど 演奏会の時に楽屋に彼が現れると 不思議と安心できたし 本番直前に舞台袖で“絶対 大丈夫!”と言われると 本当にそんな気がした。
それは 私一人に限った事ではなく 他のメンバーも同じ気持ちだった。
何度かの演奏会を経て 一年の集大成ともいえる恒例の12月定期演奏会の時も
今までと全く変わらず 遠くから見守る彼の姿があった。
そして ステージを降りた時 “よく頑張ったね。良かったよ。お疲れ様”と
メンバーの一人一人に声をかけていた。
数日後 サークルに顔を出すと まるで世間話でもするかのように先輩が
彼への講師依頼は 定期演奏会までの約束だったので あの日が最後だったのだと 黒板に何かを書きながら言った。
あの日 彼は一言も“最後”という言葉を口にしなかった。
いつもと変わらず また会えるような感じで “お疲れ”と言った。
だけど もう会う事はないのかもしれない。
そんなことを思いながら寮の自分の部屋に帰ると しばらくしてメンバーの二人が
やってきて“大丈夫?”と聞く。
「大丈夫って?」 私はその質問に きょとんとした。
「彼のことが好きだったんじゃないの?」
そう二人が言った瞬間 ポロポロっと涙が落ちた。
まるで 居場所の定まっていなかった心が 友達の発した“好き”という言葉に射抜かれ 一瞬にしてその影を心に焼き付けたようだった。
胸の痛みと 寂しさと 一言のお礼も言わずに別れた後悔とが 複雑に絡んだ。
後日 先輩が 私にこっそり言った。
「ギター、ずいぶん上達したって コーチが褒めてたよ。
頑張りなさいね」
もう会う事のない人の言葉を こういう形で耳にする。
直接言われなかったことが 返って心を彼に残してしまった。
🎵 あの人の微笑み やさしさだけだと 知っていたのに・・・
そう。
それだけでいいはずなのに、何かを求めかけている私が居た。
Smile
2024/08/27
コメント投稿が完了しました
「愛を求めた片思い〜」青春ですよね。私もよく聞いた曲でした。情景が浮かびますね。