ひなせ

当時彼は自分の事を 前田亘輝似と豪語していました。 SNSのない時代 雑誌の投稿欄で出会い  ポケベルで連絡を取り合いました。 いつしかかけがえのない存在に。  デートで別れた途端 会いたくなる恋でした。  彼とのデートには時間制限がありました。 なぜなら彼には家庭があったからです。 妻とはうまくいっていない。 妻とは別れるつもりでいる。 それが彼の口癖でした。 仕事の取材でテレビに映し出された彼。 自宅での撮影もあり 妻と娘 仲睦まじい姿がそこにありました。 取材の締めくくりは 「お父さん いってらっしゃーい。」と手を振る娘さん。 私の居場所は彼の隣ではありませんでした。 彼は10年待ってほしいと言いました。 私は家庭を壊してまで彼と過ごすべきなのか 悩みました。 泣きながらどこをどう通って帰ったのかも覚えていない中 4時間かけて自宅へ戻りました。 いつしか会わなくなり 私は他の方と結婚をしました。 数年後ふいに いたずらごころで  その彼の携帯電話に 「おともだちになりませんか?」とメッセージを送ってみました。  返事は意外にも 「いいですよ。」とあっさり。 それならせめてお名前だけでも教えてもらえませんか?と言われました。 私はとっさに「当ててみて。」と言いました。 「ひなせ。」 1番初めに言った名前が私の名前でした。   そんな彼が大好きだった曲 それが 女神たちよ そっとおやすみ でした。

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