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傷心
変わろうとしても 変われないものがある。 変わるまいとしても 変わってしまうものもある。 彼を取り巻く環境も 刻々と 変わり始めていた。 「音楽でプロを目指すには、やっぱり東京へ出なくては どうにもならないかなあ…」 ほんの何ヶ月か前 両親の反対を押し切って 私はこの街で一人暮らしを始めた。 彼が居る。ただそれだけの理由で。 だけど 今 その彼も この街を出て行こうとしていた。 見慣れぬ街で ひとりで生きていけるだろうか。 不安に思う反面 彼がこの街を出ることによって 彼女との生活も一区切りつくんだと思うと 寂しさと引き換えに起こりかけている現実を 少しやわらいだショックで受け止めることが出来そうな気がした。 「住む家が決まったら教えてね。 今度から 電話をかけてもいいんだよね。 休みが取れたら 遊びに行こうかな」 ひとり残される不安を打ち消そうと 楽しいことを思い浮かべてはしゃべった。 ちっとも 彼の困惑に気づかないで…。 「いや… どうも 彼女も僕について来ようとしているみたいでね…」 言いにくそうな 弱い声だった。 何気なく交わした言葉が こんな重大な結果を聞くことになるなんて 思いもしなかった。 そして 思いのままに 行動に移せる彼女の身軽さが羨ましかった。 この夜ほど泣いたことはないだろうと思うほど 泣いた。 とにかく 子供が ふと お昼寝から目を覚まして 誰もいないことに気づいた時のように 全身で泣きじゃくった。 私には いつも自分の感情を押し殺してしまうところがあった。 何気なく出て来る彼の言葉の中に 彼女への深い愛情が読み取れても 割と平気なふり 気づかぬふりをして ひとつひとつを受け止めてきた。 だから 彼の私に対するイメージは – いつもニコニコしている子 – “ お前と居ると 安心するし 不思議だけど ついつい何でもしゃべってしまうんだ。 いつも笑っているのがいいね”とよく言っていた。 でも この日は 泣いた。 ホテルの洗面所の水を激しく流しながら 声を上げて泣いた。 彼は じっと ソファに腰を降ろしたままだった。 何とかしてもらおうという気持ちとか ましてや 困らせようなどという想いなど ひとかけらもなかった。 ただ ただ 悲しかった。 訳もなく 涙があふれた。 ひとしきり泣いたあと ベッドに潜り込んで 今度は 声をころして また 泣いた。 やけに 時計の音だけが 大きく私の耳元で 正確にこの「時」を刻んでいた。 翌朝 二人は黙ってホテルを出た。 雨が降っていた。 そのまま 電車に乗り そして 彼は 帰るべき彼女の家のある最寄り駅で降りた。 最後まで 言葉は交わせなかった。 何も感じることが出来ない。 私は 3つ先の駅で電車を降り 濡れながらマンションまでの道を歩いた。 部屋は 何を見ても 彼に繋がるものにあふれている。 彼から譲り受けたクッションに描かれているキャラクターの おどけた表情がやけに明るくて 悲しかった。 🎵 どれほど泣いたなら あなたを・・・。 静かな雨が 窓ガラスにしずくを作り 頬をつたう涙のように 音もなく幾筋もの線を描いて落ちた。 意識のない世界へ 入りたい。 何とか眠れたなら しばらく目が覚めなければいいと願った。 意識のあることが 息苦しくつらかった。 遠くへ… 彼のことを考えなくて済むところへ 意識を「ゼロ」に出来ることころへ 行きたかった。 どうすれば 眠りに就くことが出来るのか 毎日当たり前のように 繰り返していた事が 途方もなく難しいことのように感じた。
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言葉が見つからない。 ですが、私はあなたの 表現力、文章力 大好きです。
変わろうとしても 変われないものがある。 変わるまいとしても 変わってしまうものもある。 彼を取り巻く環境も 刻々と 変わり始めていた。 「音楽でプロを目指すには、やっぱり東京へ出なくては どうにもならないかなあ…」 ほんの何ヶ月か前 両親の反対を押し切って 私はこの街で一人暮らしを始めた。 彼が居る。ただそれだけの理由で。 だけど 今 その彼も この街を出て行こうとしていた。 見慣れぬ街で ひとりで生きていけるだろうか。 不安に思う反面 彼がこの街を出ることによって 彼女との生活も一区切りつくんだと思うと 寂しさと引き換えに起こりかけている現実を 少しやわらいだショックで受け止めることが出来そうな気がした。 「住む家が決まったら教えてね。 今度から 電話をかけてもいいんだよね。 休みが取れたら 遊びに行こうかな」 ひとり残される不安を打ち消そうと 楽しいことを思い浮かべてはしゃべった。 ちっとも 彼の困惑に気づかないで…。 「いや… どうも 彼女も僕について来ようとしているみたいでね…」 言いにくそうな 弱い声だった。 何気なく交わした言葉が こんな重大な結果を聞くことになるなんて 思いもしなかった。 そして 思いのままに 行動に移せる彼女の身軽さが羨ましかった。 この夜ほど泣いたことはないだろうと思うほど 泣いた。 とにかく 子供が ふと お昼寝から目を覚まして 誰もいないことに気づいた時のように 全身で泣きじゃくった。 私には いつも自分の感情を押し殺してしまうところがあった。 何気なく出て来る彼の言葉の中に 彼女への深い愛情が読み取れても 割と平気なふり 気づかぬふりをして ひとつひとつを受け止めてきた。 だから 彼の私に対するイメージは – いつもニコニコしている子 – “ お前と居ると 安心するし 不思議だけど ついつい何でもしゃべってしまうんだ。 いつも笑っているのがいいね”とよく言っていた。 でも この日は 泣いた。 ホテルの洗面所の水を激しく流しながら 声を上げて泣いた。 彼は じっと ソファに腰を降ろしたままだった。 何とかしてもらおうという気持ちとか ましてや 困らせようなどという想いなど ひとかけらもなかった。 ただ ただ 悲しかった。 訳もなく 涙があふれた。 ひとしきり泣いたあと ベッドに潜り込んで 今度は 声をころして また 泣いた。 やけに 時計の音だけが 大きく私の耳元で 正確にこの「時」を刻んでいた。 翌朝 二人は黙ってホテルを出た。 雨が降っていた。 そのまま 電車に乗り そして 彼は 帰るべき彼女の家のある最寄り駅で降りた。 最後まで 言葉は交わせなかった。 何も感じることが出来ない。 私は 3つ先の駅で電車を降り 濡れながらマンションまでの道を歩いた。 部屋は 何を見ても 彼に繋がるものにあふれている。 彼から譲り受けたクッションに描かれているキャラクターの おどけた表情がやけに明るくて 悲しかった。 🎵 どれほど泣いたなら あなたを・・・。 静かな雨が 窓ガラスにしずくを作り 頬をつたう涙のように 音もなく幾筋もの線を描いて落ちた。 意識のない世界へ 入りたい。 何とか眠れたなら しばらく目が覚めなければいいと願った。 意識のあることが 息苦しくつらかった。 遠くへ… 彼のことを考えなくて済むところへ 意識を「ゼロ」に出来ることころへ 行きたかった。 どうすれば 眠りに就くことが出来るのか 毎日当たり前のように 繰り返していた事が 途方もなく難しいことのように感じた。
言葉が見つからない。 ですが、私はあなたの 表現力、文章力 大好きです。
傷心
浜田省吾