NoelRoad

キキーッ!(ブレーキの音) カチャッ(自転車が家の前に止まる)カタン。。。(ポストの音) あ、また来た、、、。 ポストの中には角ばった白い封筒。宛名はなく、裏には <浜田省吾大好き少年>のいつもの文字。 差出人は姉の先輩。私は彼の顔も知らない。知っているのはあの音と筆跡、ポストの前の横顔。走り去る後ろ姿。 封筒の中にはカセットテープが一本。 彼は浜田省吾が好きすぎて、いろんな人にラジオ音源を録音しては配っていたらしい。ダビングができるたびにわが家のポストに投函していたのだ。 その光景は先輩が卒業するまで何度も繰り返された。 お姉ちゃん、何あれ。 ああ、こないだレコード貸してくれた先輩よ。この人ね、まだあまり有名じゃないけど、すごい人なのよ。コンサートはめちゃくちゃ盛り上がるらしいよ。 まだ幼く初恋も知らない私は思春期の入り口に立とうとしていた時期だった。 あのカセットテープに入っていた曲のなかで、思い出すのは青春のヴィジョン。 まだ青春には早すぎるけれど、浜田省吾の歌詞の世界とメロディーにどんどん引き込まれていった。 まさか彼は顔も知らない後輩の妹が<浜田省吾大好き少女>になり、生涯聞き続けていることを知らないだろうな。

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