初恋岬

母が浜田省吾と巡り会ったのは中1の冬。家出に失敗した日の夜、ノイズだらけのトランジスタラジオから聞こえてきた初めて聴く曲に「希望が見えた」そうです。それが浜田省吾さんの「路地裏の少年」。複雑な家庭環境や周りの大人との関係に嫌気がさしていた母にとって唯一分かり合えるかも知れないとの思いだったそうです。大人になり母となって自分のことは後回しが当たり前で、家族の介護と育児と家事で笑顔を封印する日々が続いていても、浜田省吾さんのライブだけはまるで家出をするようにひとりで出掛けていき、満足そうな笑顔で帰宅していたっけ。その母が今は病院のベッドで眠ったままです。私たちはわずかな面会を終える時、母の耳元で母を救ってくれたその曲を流して帰ります。いつかまたきっと、浜田省吾さんのライブから笑顔で戻って来る母を迎えられることを毎日祈っている私たちです。

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