くまそら

16歳の私は都会に憧れ恋を夢見ていた。 そんな私の前に新卒の男の先生が現れた。 女子校だったせいもありちょっとだけ気になる存在だった。 なかなか話す機会はなかったけど修学旅行の時に そのチャンスが訪れた。 何故か先生は数本のカセットテープを持っていた。 その中に浜田省吾さんの「イルミネーション」があった。 「先生も浜田省吾好きなん? 修学旅行の間だけ貸してください」と半ば強引に持ち去った。 当時、音楽大好き少女を気取っていた私は友達と相談し 小さなラジカセをこっそりと持参していた。 クラスメイトが寝静まったらお布団に潜り込んで ラジオや音楽を聴こうと計画していた。 実際は昼間の観光スケジュールに疲れて それどころではなかった。 修学旅行最終日の夜がやって来た 明日はカセットテープを返さなくてはならない 同室のクラスメイト達が入浴中に部屋に残って 借り物の浜田さんのカセットテープをひとりで聴いた。 東京のどこだか分からないがホテルの窓からは 見た事のない電車に見た事もないたくさんの 人 人 人が乗っている。 次から次に電車はやって来る。 地方都市に住む高校生には衝撃的だった。 その時に流れて来たのは浜田さんの 「グッドナイト・トーキョー」だった。 この1か月後に地方都市の大学祭で浜田省吾さんの 生歌声を聴くことになるとはその時は思いもしなかった。 浜田さんに夢中になって先生の事はすっかり忘れてしまった。1979年の秋の出来事だった。 カセットテープきちんとお返ししました。

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