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季節が変わるたび また 同じ季節が巡って来るたび “去年の今頃は・・・” とか “何年前の今日は・・・” などと 過去の記憶と今を 並べてみる癖が私にはある そして 今年も不思議な感傷で ぼんやりあの日のことを想っていた 1年前の夏 おなかの中の子供に聴かせた 祭り太鼓の音 「来年は3人で この祭りを見に来るんだなあ この音 覚えているかなあ」とつぶやいた彼の言葉に 妙に 穏やかな幸せを感じていた 山車の行列を挟むように並ぶ 商店の軒下に沿って 人波の隙間を先へと歩く 滑って転ばないよう 人に押しつぶされないよう 彼は 私をかばいながら・・・ そして その通りの夏がやって来るはずだった だけど 月日は 二人の想いに少しずつ ズレを生じさせた 3人であの太鼓の音を聞くことは 私にはとても楽しみで 大切なことだったが 彼にとっては それは さほど重要な意味を持たなくなっていた 「田舎でゆっくりして来いよ。夏祭りは来年だって行けるじゃないか」 そう言う彼の言葉が放つ雰囲気には なんだか “NO” と言えない強い押しを感じた あまり気が進まないままに 私は 田舎でゆっくりしているふりをしながら 落ち着かない何日かを過ごした。 まさか その頃 彼が見知らぬ誰かと 一緒に過ごしていようとは思いもしないで・・・ 2週間後 ノルマを終えたような気分で 私は東京へ戻った 空港の到着ロビーで彼は待っていた 久しぶりに 3人が出会えたというのに なんだか二人の間には 子供を挟んで まるで今までと違う空気が流れているのを感じた 今でも この時の感触を言葉で表現するのは難しいのだけど・・・ 自宅に戻り 玄関に足を入れた瞬間も“他人の家みたい・・・”と無意識のうちに言葉が口をついて出た 幼い頃 遊んだ路地が 大人になって行ってみると “こんなに狭かったっけ?”と思う感覚に似ているかもしれない その時は そんな風に思った 少し熱っぽい子供を抱いて その夜は眠りに就いた 翌日 陽の光のまぶしい朝だった 今日から また3人一緒の毎日が始まる この日も いつも通り Bedでニコニコしている子供の頬にKissをして 彼は仕事に出かけた でも やっぱり いつの頃からか 1つ2つとこぼれ落ちた何かが欠けたままだった それは 敢えて 振り返る事をせず ひたすら駅への道を自転車で走り去って行く彼の背中に表れていた そして私は どんどん遠ざかって行く彼に いつも決まってこうつぶやいた 「行ってらっしゃい。今夜は帰って来てくれる?」 相変わらず 太陽は眩しく ジリジリと気温を上げていった そして その朝は その欠けたものが何だったのかに気づくまでに 彼を見送ってから さほどの時間を必要としなかった 彼を送り出した部屋には 隠し忘れてはいけなかった最後の忘れ物があった 紅いルージュを拭き取ったティッシュ ファンデーションを落としたコットン そして・・・ 灼けた鉄の棒が 一瞬 頭の中をジュッと焼いた途端 思考回線がことごとく切れてしまったようだった ・・・・ どのくらい時間が経ったのか・・・ 私は 今日一日 何をしていたのか 全く思い出せない 彼がドアを開ける鍵の音で 夜になっていたことに気づいた ー 今夜は 真っすぐ帰って来てくれた ー 今から展開されようとしている問題を思えば そんなことはどうでもいい事のはずなのに それでも 私の元に帰って来て 今 ここに居るのだという事に かすかでも 喜びを感じて安心しようとしている私がいた 子供は気を利かすように ぐっすり眠っていた 平静を装おうとする私の態度から 彼は瞬時に全てを読み取った 心の中の動揺とは裏腹に 口をついて出る私の言葉は 自分でも不思議なほど 冷静だった 何があったのか どういう思いなのか 彼の心はどこにあるのか 色々聞きたかった。 それに対し 迷いが かなり本気であることを証明するかのように 彼は 無言のまま彼女をかばった 答えは明らかだった とりあえず こんな気持ちのまま 同じ空間で眠りに就くことは出来そうになかった 家を出ようとする私を制して 彼は自ら 何枚かのワイシャツと下着を鞄に詰めて この家を出て行った 明日 彼女に会わせてくれるという約束をして・・・ 思い出していた 六畳一間からスタートした新婚生活 何もなくても 毎日がきらきらしていて 楽しい事ば かりだった 彼にはミュージシャンになるという夢があったし 私には その夢を陰から支える謙虚な女性像に対する 一種の憧れのようなものがあった 仕事もお金もなかったけど その代わり 二人で居られる時間はたっぷりあった 洗濯物がいっぱいになると そのバスケットを抱えて 二人でコインランドリーへ行った その間 夕方の駅前通りをよく散歩した また 仕事帰りに飲んでいるバンドの友達から “出てこないか”と連絡が入ると 少々遠いところでも 中古の自転車に二人乗りをして出かけた そして そろそろ帰ろうかという頃 必ず 一人の友人が “良いよなぁ お前は 明日 仕事じゃなくて” と ちょっぴりの皮肉と 友人としての思いやりと そして 本当は そんな生活も羨ましいのだという思 いを込めて言った みんなは爆笑したが 私は こんな生活もまんざらじ ゃないと思っていた 駅へと向かう友人達を見送ると また 古いアパート へと私達は自転車を漕いだ そして 二人の荷物を入れると 2畳ほどしか残らな いスペースに寄り添って眠った でも すぐに寝返りを打って背中を向けてしまう私に 彼は決まって “背中向けたまま 眠る夜ぅ~” と ふざけて歌うの だった ー ごめんなあ 今はこんな狭い部屋しか借りられなく て・・・ ー 暗闇に ぽっと彼の声が浮かんだ。 私は その温かさに安心して 深い眠りに就いた そんな二人の過去が このような未来に繋がっていたなんて 信じたくなかった あの頃より 少し広くなったこの部屋は 彼女との場を作り やっと手に入れた中古車は 彼女を乗せてドライブに出た 気づくと 私の居場所は どこにもなくなっていた
ガラスの部屋
40年前の二十歳の頃お金もなくて車もないテレビも無い狭い部屋で浜田省吾さんの曲を大好きだった彼と繰り返し聴いていた。ある日、私の前に現れて彼から私を奪っていった…主人 ガラスの部屋を聴くたびに思い出します。 若い苦い恋 私は今しあわせです。
季節が変わるたび また 同じ季節が巡って来るたび “去年の今頃は・・・” とか “何年前の今日は・・・” などと 過去の記憶と今を 並べてみる癖が私にはある そして 今年も不思議な感傷で ぼんやりあの日のことを想っていた 1年前の夏 おなかの中の子供に聴かせた 祭り太鼓の音 「来年は3人で この祭りを見に来るんだなあ この音 覚えているかなあ」とつぶやいた彼の言葉に 妙に 穏やかな幸せを感じていた 山車の行列を挟むように並ぶ 商店の軒下に沿って 人波の隙間を先へと歩く 滑って転ばないよう 人に押しつぶされないよう 彼は 私をかばいながら・・・ そして その通りの夏がやって来るはずだった だけど 月日は 二人の想いに少しずつ ズレを生じさせた 3人であの太鼓の音を聞くことは 私にはとても楽しみで 大切なことだったが 彼にとっては それは さほど重要な意味を持たなくなっていた 「田舎でゆっくりして来いよ。夏祭りは来年だって行けるじゃないか」 そう言う彼の言葉が放つ雰囲気には なんだか “NO” と言えない強い押しを感じた あまり気が進まないままに 私は 田舎でゆっくりしているふりをしながら 落ち着かない何日かを過ごした。 まさか その頃 彼が見知らぬ誰かと 一緒に過ごしていようとは思いもしないで・・・ 2週間後 ノルマを終えたような気分で 私は東京へ戻った 空港の到着ロビーで彼は待っていた 久しぶりに 3人が出会えたというのに なんだか二人の間には 子供を挟んで まるで今までと違う空気が流れているのを感じた 今でも この時の感触を言葉で表現するのは難しいのだけど・・・ 自宅に戻り 玄関に足を入れた瞬間も“他人の家みたい・・・”と無意識のうちに言葉が口をついて出た 幼い頃 遊んだ路地が 大人になって行ってみると “こんなに狭かったっけ?”と思う感覚に似ているかもしれない その時は そんな風に思った 少し熱っぽい子供を抱いて その夜は眠りに就いた 翌日 陽の光のまぶしい朝だった 今日から また3人一緒の毎日が始まる この日も いつも通り Bedでニコニコしている子供の頬にKissをして 彼は仕事に出かけた でも やっぱり いつの頃からか 1つ2つとこぼれ落ちた何かが欠けたままだった それは 敢えて 振り返る事をせず ひたすら駅への道を自転車で走り去って行く彼の背中に表れていた そして私は どんどん遠ざかって行く彼に いつも決まってこうつぶやいた 「行ってらっしゃい。今夜は帰って来てくれる?」 相変わらず 太陽は眩しく ジリジリと気温を上げていった そして その朝は その欠けたものが何だったのかに気づくまでに 彼を見送ってから さほどの時間を必要としなかった 彼を送り出した部屋には 隠し忘れてはいけなかった最後の忘れ物があった 紅いルージュを拭き取ったティッシュ ファンデーションを落としたコットン そして・・・ 灼けた鉄の棒が 一瞬 頭の中をジュッと焼いた途端 思考回線がことごとく切れてしまったようだった ・・・・ どのくらい時間が経ったのか・・・ 私は 今日一日 何をしていたのか 全く思い出せない 彼がドアを開ける鍵の音で 夜になっていたことに気づいた ー 今夜は 真っすぐ帰って来てくれた ー 今から展開されようとしている問題を思えば そんなことはどうでもいい事のはずなのに それでも 私の元に帰って来て 今 ここに居るのだという事に かすかでも 喜びを感じて安心しようとしている私がいた 子供は気を利かすように ぐっすり眠っていた 平静を装おうとする私の態度から 彼は瞬時に全てを読み取った 心の中の動揺とは裏腹に 口をついて出る私の言葉は 自分でも不思議なほど 冷静だった 何があったのか どういう思いなのか 彼の心はどこにあるのか 色々聞きたかった。 それに対し 迷いが かなり本気であることを証明するかのように 彼は 無言のまま彼女をかばった 答えは明らかだった とりあえず こんな気持ちのまま 同じ空間で眠りに就くことは出来そうになかった 家を出ようとする私を制して 彼は自ら 何枚かのワイシャツと下着を鞄に詰めて この家を出て行った 明日 彼女に会わせてくれるという約束をして・・・ 思い出していた 六畳一間からスタートした新婚生活 何もなくても 毎日がきらきらしていて 楽しい事ば かりだった 彼にはミュージシャンになるという夢があったし 私には その夢を陰から支える謙虚な女性像に対する 一種の憧れのようなものがあった 仕事もお金もなかったけど その代わり 二人で居られる時間はたっぷりあった 洗濯物がいっぱいになると そのバスケットを抱えて 二人でコインランドリーへ行った その間 夕方の駅前通りをよく散歩した また 仕事帰りに飲んでいるバンドの友達から “出てこないか”と連絡が入ると 少々遠いところでも 中古の自転車に二人乗りをして出かけた そして そろそろ帰ろうかという頃 必ず 一人の友人が “良いよなぁ お前は 明日 仕事じゃなくて” と ちょっぴりの皮肉と 友人としての思いやりと そして 本当は そんな生活も羨ましいのだという思 いを込めて言った みんなは爆笑したが 私は こんな生活もまんざらじ ゃないと思っていた 駅へと向かう友人達を見送ると また 古いアパート へと私達は自転車を漕いだ そして 二人の荷物を入れると 2畳ほどしか残らな いスペースに寄り添って眠った でも すぐに寝返りを打って背中を向けてしまう私に 彼は決まって “背中向けたまま 眠る夜ぅ~” と ふざけて歌うの だった ー ごめんなあ 今はこんな狭い部屋しか借りられなく て・・・ ー 暗闇に ぽっと彼の声が浮かんだ。 私は その温かさに安心して 深い眠りに就いた そんな二人の過去が このような未来に繋がっていたなんて 信じたくなかった あの頃より 少し広くなったこの部屋は 彼女との場を作り やっと手に入れた中古車は 彼女を乗せてドライブに出た 気づくと 私の居場所は どこにもなくなっていた
ガラスの部屋
浜田省吾
40年前の二十歳の頃お金もなくて車もないテレビも無い狭い部屋で浜田省吾さんの曲を大好きだった彼と繰り返し聴いていた。ある日、私の前に現れて彼から私を奪っていった…主人 ガラスの部屋を聴くたびに思い出します。 若い苦い恋 私は今しあわせです。
ガラスの部屋
浜田省吾