この曲に寄せられたエピソード
(27件)-
まだ歌舞伎町に噴水があった大学時代
新宿でコンパがあると酔っ払った誰かがよく噴水に飛び込んだ
大学2年の秋、いつものようにそんな誰かを見てみんなで笑っていたら、まだ友達だった彼がひどく酔っ払ってポケットから小さく折り畳んだ紙を「これ、あげる」と私に差し出した
周りの冷やかしを振り払いながら「いいからもらって」と手を突き出し続けた
受け取ると、それは手汗でボロボロになって所々文字が擦り切れた『sand castle』のカセットの歌詞カードだった
「君に会うまでは」の歌詞が1番上に折られていたそれから押されて押されて、約1年後彼は友達から恋人になった
京王線の彼の部屋に2人で帰る時、当時まだ東南口にあった古い石段の上からよく一緒に夜の新宿の街を眺めた
そんな時いつもあの曲が私達の間に流れていたような気がする
小さな部屋の電気のスイッチの位置も、初めてスーツで就職の面接に行く前に繋いだ手が冷たかったことも、卒論の資料で散らかったコタツの上も、文字が擦り切れたあの曲の歌詞カードも、今でもみんな覚えている社会に出て遠距離になって私から別れを切り出して、でも最後どうしてもお互いに「さようなら」と言えず「じゃあ、また」と言って別れて30年以上
ずっとひとりで浜省を聴いていた
誰とも一緒に聴きたくなかった去年、まだ彼と友達だった頃みんなで一緒に行った「渚園」が映画になった
8月20日、あの街で映画を観た
今まで記憶の中にしかなかった19歳だった私と20歳の彼が映像になって目の前に現れたような気がして涙が止まらなかった
映画の後、あの噴水があった広場に立ってみた
ビルの間から夕日が広場を照らしていた
ようやく言えなかった「さよなら」がやっと言えたような気がしたあなたはどこであの日の私達を観ましたか
今も浜省を聴いていますか
私は今幸せです
あなたもどうか、どうかお元気で
赤いダッフルコート
2024/08/30
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「誕生日に好きな人と一緒に過ごすって いいよぉ~。何か理由をつけて会って来なよ」
私には思いもよらない そんな素敵な事を いとも簡単に発案してくる友達に背中を押されて 私にとってはかなり勇気のいる事ではあったが ゆっくり電話のダイヤルを回してみた。
「もしもし・・・」
受話器越しに 彼の声が 何とも言えない心地よさで私に届いた。
「あの…
作ってもらった曲のことで ちょっと相談に乗ってもらいたくて…
今日 時間 空いてますか?」
「音域に無理があった?
いいよ。でも何か楽器があったほうがいいから 僕の家でよかったら
今から出て来る?」彼と個人的に会うのは これが2度目だった。
ガチガチの緊張の中 曲を書いてもらった時と そして この日。
一人で男の人と会うという事も ましてや部屋へ行くという事も 誕生日に好きな人と過ごすという事も その事のみに限定された その時だけの出来事であって そこから何かがどこかへ繋がっていくという事さえ予想できない程の未熟さで 彼の家を目指した。そのバスの窓から見える5月の夕日は 付近の空と山を微妙な色に染め替え 刻一刻と
様相を変えながら 私の心の中に やわらかく ゆっくりと 入り込んできた。
バス停で待つ 彼の横顔が その淡いオレンジに染まっていた。「実は 私 今日 誕生日なんです」
彼の部屋にはSilverというバンドの“Musician”が流れていた。
「そうなんだ おめでとう 二十歳? 記念の日だね」自分の心に気づかず過ごした1年。
その遠い存在だった彼と 今 こうして誕生日を過ごしている。
お祝いだからと 外でゆっくり食事をした後 駅までの川のほとりを二人黙って歩いた。
すぐそばを4車線の道路が走っているにもかかわらず
行き交う車の音も 街のざわめきも聞こえない。
川面に落ちて揺らめく街頭や高層マンションの明かり 連なって流れる車のライトが 空の藍色に溶け込んでいた。市街から少し離れた小さなその駅は 人影もまばらで 改札口では 駅員が手持無沙汰な様子で ハサミを時折 くるんと回した。
静まり返ったその空間では 券売機も気を遣っているように思えた。
ライトだけが 白すぎる程の明るさで 煌々と駅舎を照らしていた。私は切符を手に 今夜のお礼を言おうとした。
その時 壁に貼られた時刻表の前で 彼は最終電車の時刻を黙って指さした。
その事が何を意味しているのか 少し気にはなったが 私は 一呼吸おいて
“今夜はありがとう” そう言って 改札をくぐった。提案はしたものの 心配になった友達が 翌日 電話をかけてきた。
彼女に言わせると どうも危なっかしくて見ていられないらしい。
午後から 彼女の家でコーヒーを飲みながら 夕べの駅での事を話すと 答えの代わりに “浜田省吾の歌に こんな曲があるのよ”と言って カセットテープをかけてくれた。🎵 腕組歩くよ 夜の街 二人
彼が黙って示した指は
- 1本 電車を遅らせないか –
- もう少し 一緒に居ないか –
そういう意味だったんだと 初めて気づいた。
と同時に 時計をそっとバッグにしまい また それに気づかないふりで歩く そんな二人に そして 言葉で引き止めなかった彼の指に たまらない切なさと魅力を感じた。昨日までの私より 少し大人になれた気がした。
Smile
2024/08/27
「誕生日に好きな人と一緒に過ごすって いいよぉ~。何か理由をつけて会って来なよ」
私には思いもよらない そんな素敵な事を いとも簡単に発案してくる友達に背中を押されて 私にとってはかなり勇気のいる事ではあったが ゆっくり電話のダイヤルを回してみた。
「もしもし・・・」
受話器越しに 彼の声が 何とも言えない心地よさで私に届いた。
「あの…
作ってもらった曲のことで ちょっと相談に乗ってもらいたくて…
今日 時間 空いてますか?」
「音域に無理があった?
いいよ。でも何か楽器があったほうがいいから 僕の家でよかったら
今から出て来る?」
彼と個人的に会うのは これが2度目だった。
ガチガチの緊張の中 曲を書いてもらった時と そして この日。
一人で男の人と会うという事も ましてや部屋へ行くという事も 誕生日に好きな人と過ごすという事も その事のみに限定された その時だけの出来事であって そこから何かがどこかへ繋がっていくという事さえ予想できない程の未熟さで 彼の家を目指した。
そのバスの窓から見える5月の夕日は 付近の空と山を微妙な色に染め替え 刻一刻と
様相を変えながら 私の心の中に やわらかく ゆっくりと 入り込んできた。
バス停で待つ 彼の横顔が その淡いオレンジに染まっていた。
「実は 私 今日 誕生日なんです」
彼の部屋にはSilverというバンドの“Musician”が流れていた。
「そうなんだ おめでとう 二十歳? 記念の日だね」
自分の心に気づかず過ごした1年。
その遠い存在だった彼と 今 こうして誕生日を過ごしている。
お祝いだからと 外でゆっくり食事をした後 駅までの川のほとりを二人黙って歩いた。
すぐそばを4車線の道路が走っているにもかかわらず
行き交う車の音も 街のざわめきも聞こえない。
川面に落ちて揺らめく街頭や高層マンションの明かり 連なって流れる車のライトが 空の藍色に溶け込んでいた。
市街から少し離れた小さなその駅は 人影もまばらで 改札口では 駅員が手持無沙汰な様子で ハサミを時折 くるんと回した。
静まり返ったその空間では 券売機も気を遣っているように思えた。
ライトだけが 白すぎる程の明るさで 煌々と駅舎を照らしていた。
私は切符を手に 今夜のお礼を言おうとした。
その時 壁に貼られた時刻表の前で 彼は最終電車の時刻を黙って指さした。
その事が何を意味しているのか 少し気にはなったが 私は 一呼吸おいて
“今夜はありがとう” そう言って 改札をくぐった。
提案はしたものの 心配になった友達が 翌日 電話をかけてきた。
彼女に言わせると どうも危なっかしくて見ていられないらしい。
午後から 彼女の家でコーヒーを飲みながら 夕べの駅での事を話すと 答えの代わりに “浜田省吾の歌に こんな曲があるのよ”と言って カセットテープをかけてくれた。
🎵 腕組歩くよ 夜の街 二人
彼が黙って示した指は
- 1本 電車を遅らせないか –
- もう少し 一緒に居ないか –
そういう意味だったんだと 初めて気づいた。
と同時に 時計をそっとバッグにしまい また それに気づかないふりで歩く そんな二人に そして 言葉で引き止めなかった彼の指に たまらない切なさと魅力を感じた。
昨日までの私より 少し大人になれた気がした。